やんばる世界遺産センターのための外来植物標本製作
やんばるの森を理解するためには、そこに生きる植物を知ることが欠かせない。
その中には、この土地にもともと生育していた植物だけでなく、人間の活動によって持ち込まれ、広がってきた外来植物も含まれる。
外来植物が生態系に与える影響を理解するための第一歩は、まず、その植物がどのような姿をしているのかを知ることかもしれない。
Mille Plateauxは、やんばる世界遺産センターにおける外来植物対策の普及啓発展示に向けて、3種の植物標本を製作した。
本プロジェクトでは、植物の葉、茎、花の特徴をできるだけ観察しやすい形で残すことが求められた。
保存加工を、装飾ではなく、植物を理解するための技術として活用する試みである。
観察できる標本をつくる
対象となったのは、ツルヒヨドリ、アメリカハマグルマ、ナガエツルノゲイトウの3種。
それぞれ、生育形態も、葉や花の特徴も異なる。
ツルヒヨドリは、つるを伸ばして周囲の植物を覆い、白い小さな花を多数つける。
アメリカハマグルマは、地表を這うように広がり、黄色い花をつける。
ナガエツルノゲイトウは、水辺や湿地に生育し、茎の断片からも再生する性質を持つ。
展示の目的は、これらの植物の特徴を来館者が観察し、野外での識別に役立てられるようにすることだった。
そのため、単に植物の形を残すだけでは十分ではない。
葉の付き方、茎の伸び方、花の構造。
それぞれの植物を特徴づける部分が、見える状態で残っている必要があった。
植物に合わせて、方法を変える
今回の標本製作では、植物の部位や形態に応じて、異なる加工方法を組み合わせた。
ツルヒヨドリとアメリカハマグルマでは、葉と茎にプリザーブド加工を施し、花は透明樹脂に包埋した。
葉や茎は、植物本来の形状や質感をできるだけ残しながら加工する。
一方、花は樹脂の中に固定することで、小さな構造をさまざまな方向から観察できるようにした。

ナガエツルノゲイトウでは、葉・茎・花を一体として透明樹脂に包埋した。
植物の一部分だけでなく、葉の付き方や茎の形状を含めて観察できる標本である。

異なる技術を使い分けることは、加工の都合だけではない。
何を伝えるために植物を残すのか。
その目的に応じて、保存する形を考えることが、この仕事の重要な部分だった。
野外から展示室へ
標本の製作は、植物の採取から始まった。
採取場所は環境省の担当者が選定し、職員の同行のもと、対象植物の特徴がよく表れた個体を選んだ。

特定外来生物に指定されている植物については、必要な許可を取得し、運搬時の飛散や拡散を防ぐための措置を講じた。
採取後は、土砂や付着物を取り除き、展示に適した部位を選別した。

植物の状態を観察しながら、加工、乾燥、整形、樹脂包埋などの工程を進めていく。
自然の植物を扱う以上、すべてが同じように仕上がるわけではない。
植物ごとの特徴と状態に向き合い、展示の目的に適した姿へと整えていく。
そうした工程を経て、実物の植物を用いた観察標本が完成した。
美しさと、生態系への理解
外来植物にも、それぞれ固有の形と美しさがある。
その美しさに目を向けることと、生態系への影響を理解することは、矛盾しない。
むしろ、植物をよく観察することが、その存在について深く考える入口になると私たちは考えている。
葉の形を知る。
花の構造を見る。
野外で、その植物に気づく。
そこから、生育する場所や、ほかの植物との関係について関心が広がっていく。
植物を保存する技術は、自然そのものを保存する技術ではない。
けれど、自然を知ろうとする人のために、植物の特徴を目の前にとどめることはできる。
今回の標本製作は、Mille Plateauxにとって、保存加工技術が教育や普及啓発の場で果たせる役割を示す仕事となった。
植物を見つめることから、自然を理解する。
その小さな入口を、実物の植物によってつくる。
それが、このプロジェクトで私たちが取り組んだことだ。
Project Information
- Project
- やんばる世界遺産センター 外来植物標本製作
- Commissioning Body
- 環境省
- Location
- 沖縄県国頭村
- Scope
- 外来植物3種の保存標本製作
- Species
- ツルヒヨドリ、アメリカハマグルマ、ナガエツルノゲイトウ
- Techniques
- プリザーブド加工、樹脂包埋
- Production
- Mille Plateaux
- Delivery
- 2026
- Related Work
- 森の姿を、空間の中に。— シラタマカズラのジオラマ用標本製作
